欠けた街

Share
欠けた街

古いショッピングセンター。
ガラス張りの入り口。重い扉を押して中に入って行く。
夕方であることを差し引いても、店内は暗い。サングラスをかけたまま入ってきてしまったかと勘違いをして、私は思わず顔に手をやる。
本屋を見つけて、並べてある商品をひととおり眺めてみる。並んだ単行本の背表紙や絵本のコーナー。
ため息が漏れた。この建物の中に私の探しているものは何ひとつない。
私は諦めて、河川敷に置いてきた車まで戻ることにした。
ショッピングセンターから寂れた暗いアーケードへ出る。通りにはシャッターの降ろされた店が並んでいる。私は自分がどちらの方角から来たのか自信がなくなって、建物の間から遠くの景色を確かめる。
おそらくこっちだろう。静かな通りをとぼとぼ歩く。
しばらくすると、前から女性と男性が歩いて来る。それぞれ仕事帰りの様子で、地味なロングコートに事務鞄。鞄の重みのせいか、それとも疲労のせいか、二人とも首や肩がぐったりと下がっている。
「河はこっちですか?」
と私は大きな声で問いかける。
女性の方が、
「そっちで合ってるよ。」
とぶっきらぼうに、でもその方角に頭を傾けながら教えてくれる。
二人はそれ以上なにも言わず、私の横を通り過ぎて行った。
私はまた車のことを思い出す。河川敷で風に吹かれているはずのあの小さな車に、早く戻りたい。
通りは静か。人影は、ひとつもない。
視線を落とすと、線路が通りを横切っている。私は電車が来ないか見回して見たけれど、どうやらもう長いこと使われていないみたいだ。線路は静かに錆びついて、枕木は朽ちている。立ち尽くして、またため息つく。
もう一度足元を見てみると、埋もれかけた飛び石が線路を横切っていることに気づく。私の行く方角をへ続いている。
その白くて丸い石を見ると私は少しだけ落ち着いて、またゆっくりと歩み始めた。

2026


#micro-fiction
#old-shoppingcenter





Read more

教会

教会

町の中心にある教会。 中に入って、お祈りの蝋燭を灯した。 プロエルメルはブルターニュ地方にある小さな町で、人口は一万人ほど。 電車は通っておらず、高速バスで他の町へ行き来する。 バスの窓から、麦畑や森の中にぽつぽつと在る、いくつかの小さな町を眺めながら辿り着いた。 私はこの教会を中心に集落が出来たのかな、と立派な建物を見上げて思いを巡らす。他の町も同じように人が集まって町が出来たんだろうか。 遠い昔、森にはオオカミが居たのかもしれない。 朝の7時を始まりに、鐘の音が町に時を教えてくれる。 毎週金曜日には、市場が立つ。肥沃な大地で作られた野菜、果物、お肉やチーズ、魚介類などが売られる。どれもこれも新鮮で、特に魚介はぴちぴちで綺麗。まだ動いているテナガエビや小粒のムール貝が盛られている。 注文を受けてから強面のおじさんがスライスしてくれる生ハム。 買いに来るのは年配の方が多く、みんな大きくて丈夫なエコバッグやカートを持参する。 新鮮なリンゴや大きな房のブドウ。背中の曲がったお爺さんがどっさりと買った果物をエコバッグへしまうのを隣で驚きながら盗み見する。きっと彼やその家族の1週間分のお

プロエルメル

プロエルメル

パリから高速列車とバスを乗り継いで Ploërmel まで そこで何か出会えるかも また来たいと感じる場所を求めて 古い建物の屋根裏にある小さな部屋 そこが数日間の私たちの帰る場所 通りには百日紅の花 可愛らしいフラッグ ちょっとした楽園だね ヨーロッパにも熱波が訪れた夏 町の人たちは夕方からテラス席に集い 友人と、家族と、赤ちゃんも連れて グラスに入った飲み物で いつまでも明るい夜を楽しむ キャミソールや花柄の軽やかなワンピース 店の外まで流れる音楽 語らうことはたくさんある

she

森のなかで開かれた従姉妹の結婚式 家族と一緒に来れて嬉しい ウェディングドレスを着て幸せそうな花嫁 黒いドレスを着た私は、ヒールが滑らないように 階段の手摺りを握る 5月の雨でコンクリートの階段が光っている 隣に居た祖母の肘に軽く手を添える 腕を組むみたいに 私より背の低くなった彼女の装いは 白いサテンのツーピース たくさんの青い薔薇と英字がプリントされている どこでこんな服を買うんだろうって マジマジと見る でも祖母が着ると違和感なく見えるから不思議 私は祖母からいつも意地悪を言われて ほんと大嫌いだったけど 今日はせっかく幸せなんだし お互い転ばないように 手を貸してあげる

走りことについて考えたときdestinyが思うこと

ひとつ息を吸って 短い息をふたつ吐く 今日の自分の重みを確かめる 右膝が痛かったり 肩甲骨や骨盤まわりの強張りに気づく 速く走ろうとして 息をたくさん吸ってしまうと 過呼吸で苦しむ 吸いすぎない程度の速さを意識すること もしコースを1km延ばしたければ いまより少し楽に呼吸出来る速さで走る 私はせっかちだから ずっと知らなかったんだけど 何事も 長く続けたければ 遠い先のゴールまで続く呼吸を探すこと ペース配分と言う概念 きっとほとんどの人は知ってたんだろうなって 走りながら思った